小熊英二氏の「地域をまわって考えたこと」(東京書籍)を読んだ。ところどころの発言は面白かった。こういう有名な学者が地域を回るということは、その地に根付く人にとっては注目されてうれしいし、励みにもなろう。愚痴の聞き役としても重要なんじゃないか。

板橋区の高島平で地元をけん引した人がワンマンだったというくだりは興味をひいた。どうしてもそういうカリスマ性のある人が出てこないと、まちの活性化はうまくいかないのだ。だが、その人がひとたびいなくなると、もううまくいかない。まちづくりは伝承が効かない。

石巻市も丹念に現在の立ち位置が描かれている。合併で多様な地域が一緒くたになったということで、それを分解して、丁寧にたどりなおしている。震災7年後の試行錯誤、前向きばかりにはなれない現実がきちんと示されている。

全体的にやや食い足りない。取材している人の多くはそれなりに目立つことをやっている人、Uターン者、移住者だからだろうか。ちょっと異質な人に時間をもらったという感じなのだ。表層的という以上には突っ込んでいるが、「どうですか最近」という問いかけで終わっているような印象だ。

筆者の地域振興の目標は「他から必要とされる地域」「持続可能で人権が守られる地域」だそうだ。そこまでの存在意義って地域に必要だろうか。地域に住んでいる人が納得して暮らせていれば、うちに閉じていてもいいし、持続可能でなければいけないということもないんじゃないか。

筆者は丁寧に地域を回っているし、筆致も抑制的ではあるのだけど、スモールビジネスを紹介した観光案内の域を出ていない。地域住民が地域の将来を考えて、いま、この局面でどのような決断を下そうとしているのか。個人の歩みよりももう少し大きいフレームで。そこにもう少し答えてほしかった。


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