竹中治堅氏の「コロナ危機の政治」(中公新書)を読んだ。副題が「安倍政権vs.知事」とあっては読まねばなるまい。

対立を煽るような内容ではなく、丁寧に起きたことを書き記す。クロニクルの体裁。冷静な筆致はとても好感を持てる。

官邸と知事の齟齬に焦点を当てたが、私自身が読みたいと思った問題意識とはズレた。確かに知事は首相の言うことを聞かなかったが。

齟齬が生じたのは、厚生労働省と自民党のせいではないか。厚労省はプロであるにも関わらず、果断かつ機敏に対処する姿勢を欠いたと思えてならない。

法律の順守に縛られ、現実への柔軟な対処が全くできなかった。だからこの本でも厚労省はあまり登場しない。

首相支配は官僚を使いこなすことで実を結ぶ。コロナでは力を出すべき厚労省が抵抗勢力になり、もしくは茫然自失となり、首相の役に立たなかった。

PCR活用や保健所の運用、検疫の強化、医療崩壊の回避、オンライン診療の導入、ワクチン開発。なに一つ主導的な力を出していない。

少なくともそう見える。ならば政治が右往左往するのも当たり前。首相もだめだったろうが、官の劣化が政の足を引っ張ったのではないか。

もう少し官邸内の力学に踏み込んでほしかった。こんな事態は初めてなんだから、官邸内で決めず、現場の意思を汲み、的確と思われる手を打つべき。

上から目線の強攻策はなんにもならない。だから地方の知事の存在が際立った。現場を持つ政治家の発言に意味があり、それが有効打になった。

官邸・政府はもっときめ細かく知事と話をしないといけなかった。空中戦で批判しあってもだめ。これは分権のせいという話ではない。政治の稚拙さだ。

問題は政府内の一体感のなさにあり、見えぬ政府に都道府県が困って、必要な手を自ら打つべく動いたということではなかったのではないだろうか。
IMG20201224015609